総合確保基金設立から5年。課題は?

厚労省の医療介護総合確保促進会議が、約1年ぶりに開催されました。地域における医療・介護の総合的な確保の方針等を定めることを目的とした会合ですが、地域医療介護総合確保基金(以下、確保基金)の各年度の交付・執行状況の報告等も行なわれています。

都道府県の事業計画にもとづいて交付

まずは、上記の確保基金について改めて知っておきましょう。この基金は、2014年の介護保険法等の改正(総称は、地域医療介護総合確保法)の際に定められたもので、消費増税分等を活用した財政支援制度です。医療分と介護分があり、この基金からの交付によって、地域の医療・介護資源の確保に向けた施設・設備の整備のほか、医療・介護従事者の確保を推進するための事業に使われます。

基金の交付に際しては、都道府県が基金を使った具体的な事業計画を提出することが必要です。都道府県の事業計画は、市町村の事業計画を取りまとめたうえで策定されます。

国は、各年度の予算編成の時点で、「どのような事業を対象とするか」という区分を定め、都道府県の事業計画はその区分に沿ったものとなります。この各年度予算では、新たに事業メニューが追加されることもあります。たとえば2019年度予算では、「介護従事者の確保」という区分の中で、従来の労働環境・処遇の改善等に加え、「ICT導入や介護入門者のステップアップ、現任職員のキャリアアップ」に対する支援が新たに定められています。

ちなみに、2018年にスタートした「介護に関する入門的研修」(東京都など)での講師派遣や、三重県が力を入れている「介護助手の導入支援」の総事業費などが、この確保基金によってまかなわれています。

基金の費用対効果の検証は十分なのか?

もっとも、区分が定められているとはいえ、都道府県ごとの具体的な事業計画は変わってきます。これにより地域ニーズに合わせた柔軟な事業展開を可能とするのが、この基金の目的です。都道府県(あるいは市町村)の創意工夫のもとに基金が使われるわけですから、その方が効率的と思われるかもしれません。

ところが、今回の促進会議で示された基金の執行状況では、交付額に対する執行額の割合に都道府県ごとでバラつきが見られます。中には、執行額が交付額の半分以下というケースもあります。こうした状況について、厚労省は以下のような留意点を示しています。

それは、施設整備の事業に関して、「複数年度にわたって実施中」あるいは「実施予定」について「後年度分の負担分を確保しているため」というものです。そのうえで、「整備の進ちょくにともない、未執行額は次第に解消される見込み」であるとしています。

しかしながら、たとえば「介護従事者の確保」にかかる事業分の執行状況などに関して、詳細な内訳は示されていません。ニュースでも取り上げているように、促進会議の委員からも、執行状況が不明確な部分を問題視する指摘が出ています。国民が負担する消費増税分でまかなわれている基金を、現場がもっとも危機感を持っている部分にあてているわけですから、詳細なデータで費用対効果を明らかにすることは省庁の責務といえるでしょう。

過剰な基金依存がもたらす副作用に注意

ここで、改めて考えたいことがあります。確かに、介護施設等の設備整備や介護人材の確保については、地域ごとに解決すべきニーズは異なってくるでしょう。一方で、特に介護人材の確保に関しては、地域間の人材密度の格差の解消や普遍的な処遇環境の底上げなど、全国すみずみまで見渡したうえでの施策の足腰を定めることが欠かせません。

もちろん、地方分権の時代に、国に過度の依存をせずに自治体の施策力を高めることは必要です。しかし、介護人材確保に関していえば、国の責任範囲が強く問われる課題の一つといえます。それでなくても基金行政というのは、執行状況の監視が不十分だと中央の「丸投げ」体質が無尽蔵に広がってしまう危険がつきまといがちです。その時点で、都道府県や市町村の担当者の問題意識や施策能力によって「格差」を助長しかねないわけです。

介護保険制度を支える中心は、利用者となる被保険者であり、現場を担う職員であるはず。そうした人々が、どこに住み働いていていても、最低限の施策効果が得られる確信をもてること──ここに、社会保障制度の信頼を確立する土台があるのではないでしょうか。

少なくとも、基金誕生から5年が経過した今、人材確保にかかる執行状況の詳細を明らかにし、国会等で検証すること。そして、「国として積極関与しなければならない部分」を明らかにすることが重要です。介護人材不足という危機に直面する今、基金依存がもたらす副作用を過小評価してはなりません。

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