保険者アウトカム強化の先にあるもの

次の介護保険制度見直しに向けて、重点テーマの一つとなっているのが「保険者機能の強化」です。中でも、2018年度からスタートしている保険者機能強化推進交付金(インセンティブ交付金)にかかる評価指標の見直しが、介護保険部会でも大きな論点となっています。

インセンティブ交付金の何が問題なのか?

上記のインセンティブ交付金は、都道府県および市区町村(保険者)を対象としたものなので、現場の事業者・従事者としては「いまひとつピンとこない」という人もいるでしょう。そこで、「インセンティブ交付金の何が問題となっているのか」をまず整理します。

ご存じのとおり、この交付金は国が定める評価指標を「どの程度達成したか」によって分配されます。その評価指標とは、地域の高齢者の自立支援・重度化防止などに向けた取組みを評価するものです。その指標の内容はおおむね3つに分かれます。(1)国が定める取組みを行なっているか(プロセス指標)、(2)国が定める取組みがどの程度できているか(アウトプット指標)、(3)上記の取組みによって自立支援・重度化防止の効果がどの程度上がっているか(アウトカム指標)という具合です。

ケアマネ関連でいえば、(1)は「ケアマネ対象の研修会・事例検討会の開催計画を立てているかどうか」などが、(2)は「ケアプラン点検をどの程度実施しているか(全ケアプラン数に対する点検割合)」などが該当します。一方、(3)については「地域の高齢者の要介護度の維持・改善の度合い」などが対象となります。そして、この(3)の強化が、次の制度見直しのターゲットとなっているわけです。

アウトカム強化に向けた政府内プレッシャー

なぜ、(3)の強化が必要なのでしょうか。背景となる課題をストレートに示したのが、今年6月に財務省の財政制度等審議会が打ち出した建議内の資料です。その中で指摘しているのが、「評価指標全体の得点が高いのに(3)が芳しくない」というケースや、逆に、「全体の得点が低いのに(3)の得点が高い」というケースがあるという状況です。取組みの成果と全体の評価が連動していないというわけです。

これに対し、厚労省はすでに2019年度の評価指標の中で、「要介護状態の維持・改善の度合い」の配点を増加しています。また、維持・改善の度合いについて、「要支援者」を対象とした評価指標を追加する予定です。つまり、厚労省なりにアウトカム指標の強化を図るという動きは見せていることになります。

しかしながら、財務省側の「より適切なアウトカム指標の設定・活用や配点のメリハリ付け」への要望は強く、政府の「経済財政運営と改革の基本方針(骨太の方針)2019」でも、同様の指摘がなされています。介護保険部会としては、アウトカム指標をどのように強化していくかという点で、政府内からの強いプレッシャーを受けているわけです。

逆の循環を生まないためのチェック機能を

これまで以上にアウトカム指標が強化されることになった場合、懸念されるのは、それが現場の介護サービスにもたらす影響です。保険者の中には、「要介護度の維持・改善を進めるためにどうすればいいか」というビジョンについて、現場との意識共有が十分に図れていないケースもあります。そうなったとき、ADL偏重による保険者から事業所・施設への一方的な指導などが強まったりします。

これがもう一歩進むと、利用者の意向とかけ離れた機能向上などにつながったり、「利用者のQOL向上」に向けて各現場が培ってきたノウハウが崩れかねません。こうした混乱は、逆にアウトカム指標を悪化させ、それゆえに保険者側もさらに厳しいプレッシャーをかけるという悪循環が生じる恐れもあります。

仮にインセンティブの中に、(現状では「保険者の責め」によらない)調整交付金が絡んでくるとなれば、保険者側の焦りを助長することで、上記のような傾向も加速する可能性があるでしょう。また、国が示す介護予防施策の項目が増えてくれば、基盤整備に向けた交付金依存は高まるという中で、これも保険者のあり方を歪ませないとも限りません。

となれば、本当にそれが「(自立支援に欠かせない)利用者の生活の質」と「従事者のモチベーション」に合致するのかをチェックするしくみが必要です。たとえば、地域の利用者・家族の代表、職能の代表などで構成する(保険者から独立した)チェック機関を制度上に位置づけるわけです。これは、自立支援・重度化防止を機能させる「現場との意識共有」を醸成させるうえでも有効でしょう。

介護施策に限らず、「目先の結果」を求める圧力が肥大化すると、そこには必ずコントロールしがたい負の状況が生まれます。これをいかに防ぐかというのがプロの行政の手腕であり、そこには第三者的なチェック機能が欠かせません。施策の費用対効果を高めるうえで、知恵を注ぎ込むべきポイントのはずです。

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