「利用者宅」での介護労働環境の課題

厚労省が、「人生100年時代に向けた高年齢労働者の安全と健康に関する有識者会議」を立ち上げました。2018年時点で、労働者に占める60歳以上の割合は17.2%。これは15年前の2倍近い数字となっています。特に医療・福祉関係の伸びが目立つ中、介護現場でも「高年齢労働者の安全と健康」をいかに守るかが労務管理上の重要テーマとなりつつあります。

ヘルパー、ケアマネで60歳以上は約2割

2017年の統計調査をもとにした厚労省データによれば、全産業従事者の平均年齢は41.8歳。この平均年齢と介護業種を比較すると、施設従事者の場合は40.8歳でやや低いのですが、ホームヘルパーになると46.9歳とかなり高くなります。それ以上に高いのがケアマネジャーで、48.0歳となっています。

では、介護事業所・施設において60歳以上の従事者割合はどうなっているでしょうか。母数は限られますが、参考値として2017年度の介護労働実態調査(介護労働安定センター)からピックアップしてみましょう。

母数が多いサービスで見ていくと、特養ホームで5.1%、通所介護で8.6%。これが訪問介護になると16.5%、居宅介護支援で20.0%へと上昇します。職種別で見ても、(施設等の)介護職員が9.4%に対し、ホームヘルパーは19.1%、ケアマネジャーで18.8%となっています。こうして見ると、「利用者宅への訪問」機会が多いサービス・職種ほど高年齢従事者が多いという状況が浮かんできます。

訪問系サービスで生じうる労働環境リスク

上記の点を頭に入れたとき、高年齢従事者の健康と安全を守るうえでは、「改善すべき職場環境」の範囲を広げていくことが欠かせません。ここでは訪問介護を例にとり、介護など保健衛生業でもっとも多い業務上疾病の「腰痛」について考えます。施設等なら腰痛防止の作業環境を組織的に整備することはできても、利用者宅となれば屋内環境の個別性がどうしても高くなります。そのため、時として環境整備が追いつかなくなりがちです。

たとえば、利用者の生活スペースが狭く、ヘルパーが限られた姿勢でケアを行なわざるをえないとします。当然ながら腰痛リスクは高まります。移乗介護等で介護用リフトやスライディングボードなどを活用するとして、介護保険の福祉用具としてレンタルするなら、そこには「レンタルするか否か」について利用者の意向が入ってきます。つまり、事業者側が「従事者の健康と安全を守る」という意識のもとで支給したりしない限り、統一的な環境整備は完全には保障できないわけです。

さらには、利用者宅にエアコン等が整備されていない場合(あるいは故障したままで、経済的問題などから修理・買い替えをしない、一般宅のために設置に時間がかかるなど)、夏場などは本人・家族もさることながら、従事者側の熱中症リスクも高まります。もちろん、本人・家族の安全と健康という観点からさまざまな支援策が導入されるケースも多いでしょう。しかし、ここでも「従事者の健康と安全を保障する」という視点での「制度面での統一対応」とは、別問題にされがちです。

訪問系従事者を守る法体系が必要では?

以上の点を考えた場合、訪問系サービスにおいて、利用者宅の環境整備に「従事者の労働環境」という位置づけをしっかりと組み込む制度づくりが欠かせません。たとえば、住宅改修や福祉用具の導入について、その必要性の判断に「従事者の労働環境整備」という視点の反映を義務づけるという具合です。

それによって、仮に利用者負担が膨らんでしまう場合は、公費による助成を行なう方法も考える必要があるでしょう。確かに、介護給付と公費の範囲調整が難しくなるかもしれませんが、「従事者の健康と安全を守る」という理念を優先させる法(以前も述べたことがある「介護従事者保護法」など)の整備をきちんと行なえば、混乱を防げるはずです。

一応、現行法(労働安全衛生法)においても、介護事業所・施設に対して「安全衛生管理体制の確立」を義務づけてはいます。ただし、上記のように、「利用者宅での就労環境」と「利用者の意向や介護給付の範囲」といった部分の整合性をどうとっていくかなどについて、省令等でも明確な規定はありません。

これまでは、現場の実情に応じて臨機応変に安全衛生管理体制を確保してきた部分が大きいと思われます。しかし、国の介護人材確保の方針でも中高年齢層の人材活用が推進されていく中、とかくブラックボックスになりがちな利用者宅での労働環境について、もっと踏み込んだ規定がなされてしかるべきではないでしょうか。介護保険部会などでも、介護人材確保にかかる重要な論点として、具体的な方向性を示してもらいたいものです。

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