高齢化にかかる社会保障費を深読み

国立社会保障・人口問題研究所が、2017年度の社会保障費用統計を公表しました。同統計は、社会保障に関する1年間の支出を、OECD(経済協力開発機構)の基準とILO(国際労働機関)の基準という2通りで集計したものです。2年前のデータでありますが、近年の高齢者増や2015年度の介護報酬改定との関連などに照らして掘り下げてみましょう。

高齢者増と比して年金給付の伸びはわずか

社会保障給付費が過去最高の120兆2443億円に。介護関連費は、初めて10兆円規模に──これだけを見れば、「人口の高齢化による自然増」という分析で落ち着いてしまいがちです。ただし、各項目の推移にもう少し目を凝らしてみると違う側面も見えてきます。

今調査以前の直近5年(2013年度から)の推移で見てみましょう。まず、この間の高齢者人口の伸びは10.2%と2桁を記録しています。2015年に、いわゆる団塊世代が全員65歳以上を迎えたことが影響しています。

この伸びに対し、社会保障給付費でもっとも比重を占める「年金」の伸びは1.7%。厚生年金(報酬比例部分)の支給年齢の段階的な引き上げなど、さまざまな年金改革の効果が現れているものと思われます。65歳以上の年金支給への影響は現時点では少ないかもしれませんが、高齢者の伸びと比較して給付費の伸びが「かなり低い」という点では、高齢者の生活状況に注意を払うことが必要でしょう。

さらに、高齢者分野全体の支出を見ても、4.7%なのでやはり高齢者人口の伸びに比べるとかなり抑えられています。この点からも、人口形態にかかる社会保障費の自然増は、私たちが考える以上に施策的なコントロールがなされている点を頭に入れておきましょう。

介護費用の伸びと医療費との関係にも注意

「とはいえ、介護給付費の伸びに限ればかなり突出している」と思われるかもしれません。確かに、直近5年で見ると伸び14.9%と高齢者人口の伸びを大きく上回っています。団塊世代が70歳に近づく中で、「同じ高齢者でも要介護リスクが高まっている」という見方もできるでしょう。介護人材確保のためのたび重なる処遇改善加算の拡充なども、確かに影響の一つかもしれません。しかし、2015年度の介護報酬の大幅なマイナス改定の中で、「本当にそうなのか」という疑問も浮かびます。

ここで、医療関連の給付費の伸びを見てみましょう。こちらは、直近5年での伸びは9.2%なので、高齢者人口の伸びとほぼ一致します。ただし、逆に「一致する」ことへの不自然さはぬぐえません。なぜなら、医療の高度化にともなって高額薬剤などが増え、それが医療給付の増大の一因になっていることは、厚労省も認めているからです。つまり、高齢者の伸び以上に「医療費が増大する」というのが、本来ならば自然な状況となるわけです。

では、医療費が高齢者人口の伸び以上に増えているとして、その部分はどこに行っているのか。よく指摘されることですが、提供される医療の一部が介護保険へと移行し、それが、介護給付費の「高齢者人口以上の伸び」につながっているという構図が浮かびます。

高齢者関連支出の伸びも「適正」なのか?

以上の点を考えたとき、社会保障費が過去最高を記録したことの内訳について、現場としてはもう少し幅広い視野で見ていくことが必要です。そのことは、高齢分野の「社会支出」が、本当に高齢者の生活に資するものになっているのかという点も含みます。

今統計におけるOECD基準の「社会支出」では、施設整備費など「直接個人には移転されない支出」も含まれています。「施設整備なのだから、最終的には個人に利益還元されるはず」と思われがちですが、本当にそうでしょうか。たとえば、高齢者支援にかかるさまざまな事業に予算が投入されたとして、それが真に当事者の利益につながっているのかを検証することが必要になってくるでしょう。

政府は介護離職ゼロを目指して、地域医療介護総合確保基金などを活用したハード整備や人材不足対策をほどこしています。特に人材不足対策については、(サービスの効率化や生産性向上も含めて)毎年度新たな事業が次々と生まれ、整理しなければ事業者としても使い勝手がいいとは言えなくなっています。処遇改善交付金についても、介護保険部会などからは、「本当に効果が上がっているのか」という検証を強く求める声も出ています。

仮に、介護給付費の伸びが「高齢者増にともなう自然増」をきちんと反映していないとなった場合、費用対効果が定かでない事業に使うお金を「基本報酬増にあてた方がいいのでは」という考え方も出てくるはず。給付費の抑制をとなえる前に、足元の事業のPDCAサイクルをきちんと機能させることが、まずは必要なのではないでしょうか。

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