第5回 効果的なコミュニケーションのとり方

コミュニケーションの方法について「こういう方法論が正解だ」というものはありません。個々人が、自分独特の方法論があり、それは経験の中で意識的・無意識的に「創り上げてきた」もので、「唯一無二なもの」といってもよいと思っています。本稿では「私はこう考えている」という、私なりのコミュニケーションの取り方を紹介してみたいと思います。

言葉だけに着目してはいけない-Aさんとの出会い

私が普段介護支援専門員としてのコミュニケーション場面の中で特に留意していることは「利用者さんやご家族は何を語ったのか」に着目しないことです。語られた言葉はもちろん重要な情報ではありますが、言葉だけをとらえてしまうと本質を見逃してしまう危険性があります。だから私は「何を伝えたかったのか」を理解しようとしていますし、理解できるまで利用者さんやご家族に語ってもらうようにしています。

このような考えに至るようになったきっかけは、私が大学を卒業して特養の生活相談員として高齢者介護の現場に従事したばかりのころ、とある利用者さん(新規に入所を予定されていた方です)と初回の面接をしていた時のことです。その利用者さんをAさんとしましょう。

Aさんは70代後半。多発性脳梗塞で四肢に重度の後遺障害が存在していました。言語も不明瞭なところがありましたが、認知機能には低下がほとんどなく、頭ではしっかり理解ができているが伝えることが大変な状況でした。伝えられなかったわけではありません。家庭の介護力が低かったために在宅介護が困難ということで入所希望されていました。

家族間で入所についても何度も話し合いがもたれ、Aさんも入所の必要性を理解して納得されていると事前に行政の担当者から情報がありましたので、「そのつもり」で事前面接に行き話を伺っていました。

スムーズに進んだ事前面接。しかし…

Aさんに入所後にどのような生活をしたいのかを確認しました。納得しての入所なので入所後の生活に焦点を当てた情報収集をして問題ないと思ったからです。Aさんはたどたどしい口調ながら一生懸命に自分の考えを伝えてくれていました。聴き取りづらいと情報があったけれど実際には想定以上に聴き取りやすく、コミュニケーションに困るようなことはありませんでした。Aさんは特に自分が家にいては家族に迷惑をかけてしまうから1日も早く入所したい。入所後には友達を作ってたくさん話をしたいといわれていました。

実際にAさんが入所され、事前面接の結果を踏まえ、話ができる利用者さんと同室とし、日中もできる限り話ができるように働きかけをしました。しかし実際にはAさんは同室者や他の利用者、それどころか職員にも殆ど話をしてくれません。私が訪ねてみても同様に「あまり話をすることはありません」といっているだけです。

そこで私は「入所前はあんなに友達を作って話をしたいといわれていたではないですか」と訊ねてみましたが、Aさんは「あの場ではそう言わないと家族に余計に心配と負担と迷惑をかけてしまうじゃないか。本当は施設に来たくなんかはなかった。自宅で過ごしたかった。自分では何もできないし、生活の全てを人にしてもらわなくてはいけないけど、それでも自宅にいたかった」と泣きながら話してくださいました。

Aさんの言葉の裏に隠されていた真の気持ち

私はAさんの言葉だけを受け止め、言葉の裏にあったAさんの気持ちを考えることなくことを進めてしまっていたこと、Aさんの言葉だけに焦点を置いてしまい、Aさんの表情や態度に着目することなくAさんの「真の気持ち」を確認できる重要な機会を、自ら手放していたことに気が付きました。

私はAさんに謝罪しました。Aさんはこんな不出来な相談員だった私を許してくださいました。そして改めてAさんと腹を割って本音の話し合いをしました。Aさんが疲れたといわないと2時間以上も話し込むことも少なくありませんでした(一人の利用者さんに関わりすぎだと上司から何度が注意を受けましたが、スルーしていました)。

結果としてAさんは話もしたいけれど何を話題としてよいのかわからずにいたし、花を眺めたりすることが大好きな人だったので施設周辺の季節季節の花を見に出かけたりできるようにしていくことで他の利用者さんや職員とも会話が増え、ご家族が面会に見えた時にも楽しいひと時の話を伝えてくれるようになりました。

このAさんが私に「言葉だけに注目してはだめだよ、言葉の裏には伝えたくても伝えられない気持ちがあり、その気持ちをつかまないと本心は理解できないよ」と教えてくださいました。

このできことからすでに30年以上の時間が経過していますが、いまだに私はAさんに教えていただいた教訓を心に留め、日々の仕事の中で活用しています。

きっと皆さまの経験の中にもAさんと同じようなコミュニケーションの支障が存在することでしょう。

◆著者プロフィール 中村雅彦
1960年生まれ。主任介護支援専門員・社会福祉士。
日本社会事業大学を卒業後、特別養護老人 ホームの生活相談員を経て、介護保険制度施行と同時にケアマネジャーに。
独立居宅の管理者兼介護支援専門員として約15年務め、現在は北アルプス医療センター あづみ病院 居宅介護支援事業所に勤務。
前長野県介護支援専門員協会会長、日本介護支援専門員協会長野県支部代議員、介護支援専門員実務研修・専門研修講師、松本短期大学非常勤講師等を歴任。
日本介護支援専門員協会には幾度となく現場目線からの提言をしている。
優しい眼差しと熱い口調でケアマネの養成に勤めている。趣味はスポーツと読書。

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