注意すべきは「実地指導効率化」の先

前回のニュース解説でも述べたとおり、5月30日の発出通知で、介護保険施設等への実地指導における標準化・効率化をめざした運用指針が示されました。特に居宅介護支援事業に対する確認項目は(標準化されたものに絞ったことで)約4分の1に削減されています。

実地指導の「広く浅く」への切り替えの中で

実地指導項目がこれだけ削減されたことにより、確実に1回あたりの実地指導にかかる時間は短縮されるでしょう。同席しなければならない管理者等にとって、実地指導対応という部分での業務負担は減ることになります。

ただし、今回の通知は、あくまで「実地指導の効率性を上げ、(事業所数が増えている中で)より多くの実地指導を行なうこと」が目的です。つまり、特定の事業所の指導に集中するのではなく、地域における指導の量的な拡大を目指す方向への切り替えといえます。

指導をする側も受ける側も疲弊してしまうようなしくみであるなら、「広く浅く」にした方がサービス運営に支障をきたす可能性は低くなる──ということはいえます。しかし、ここで立ち返るべきは、「それでは、なぜ実地指導を行なうのか」という原点です。

そもそも保険者による「指導」というのは、「よりよいケアの実現を図れるよう、事業者を育成・支援する」ことが目的です。この点で「不正請求や指定基準違反をチェックする」ことを目的とした「監査」とは異なります。

加えて、2018年3月に示された「居宅介護支援事業所への実地指導マニュアル」では、事業者の「育成・支援」のために、指導する側・される側の「信頼関係」が重要であると述べています。さらに、保険者側に対し、「信頼関係を構築するために、(対事業者にかかる)コミュニケーション技術や対人援助技術等の基本的な考え方の理解」までも求めています。

保険者と事業者の信頼構築がなぜできない?

もちろん、指導を効率化することと「(ていねいなコミュニケーションをもって)信頼関係を構築する」ことの両立は不可能ではありません。実際、今回の通知でも「(指導側は)高圧的な言動は控え、改善が必要な事項に対する指導やよりよいケア等をうながす助言等について、事業者との共通認識が得られるように留意すること」と釘を刺しています。

しかし、この部分を「実地指導」の軸と定めるのであれば、「なぜ、それができていないのか」を先に問題とすべきではないのでしょうか。つまりは、こういうことです。

本来、事業者の育成・支援が目的であるとして、「育成」というのは当事者が「自分で気づき、自らが自分たちの能力を高めていく」というエンパワメントが必要です。その結果として、事業者側は「自分たちの成長」というメリットを自覚できることが必要です。これが実現できていれば、(良識のある)事業者ならば、実地指導自体が「面倒なこと、やっかいなこと」ととらえる余地はないはずです。

でも、実際はそうなっていないとなれば、何が問題なのか。それは、制度そのものが複雑化する中で、保険者と事業者がお互いの共通認識を「どこに持ってくればいいのか」が見えなくなっていることではないでしょうか。

ケアマネに寄り添える指導は存続できるか

たとえば、国は介護保険制度に関して、自立支援・重度化防止の旗を振り続け、「重度者の地域生活」を目指した地域包括ケアシステムの構築を保険者に求めています。しかし、これを進めるためのケアマネジメントは、簡単なものではありません。利用者の課題は多様かつ複雑で、多くのケアマネとしては、試行錯誤を続けながら焦らず少しずつ正解に近づいていくしかないと考えています。

そして、比較的現場との「関係」が良好という保険者の担当になると、上記のような「試行錯誤」は当たり前ととらえ、だからこそ「ケアマネ側の悩みや迷い」に寄り添うという姿勢を粘り強く維持しています(実際、介護保険スタート時から、そういう「優れた自治体担当」がいるケースもたくさん見てきました)。

ところが、今大きく変わろうとしているのが、保険者に対しインセンティブ交付金による評価指標という網が被せられたことです。次の制度見直しでは、インセンティブを調整交付金にまで広げることで、さらなるプレッシャーが保険者側にかかってきます。

評価指標の中には、地域課題の把握と対処などに資するものもありますが、ひとたび導入されることで、行政内組織が担当者個人に足かせをはめかねない項目もあります。優れた指導担当がじっくりとケアマネの「伴走者」を務める余裕が失われる懸念も生じかねません。その損失は、今回の効率化による現場の負担軽減を打ち消す恐れもあるわけです。

「これで実地指導が(する側も受ける側も)楽になる」という中で、実はもっと重大な問題が進行しているのではないか。その部分にこそ、目を凝らす必要がありそうです。

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