「生産性向上」よりも「人間性向上」を

厚労省の「2040年を展望した社会保障・働き方改革本部(以下、改革本部)」が、議論のとりまとめを行ないました。介護現場にかかわるものとして「医療・福祉サービス改革プラン」が提示されています。目指すのは「生産性の向上」。昨今、強調される概念ですが、そもそもこの概念、適切なものなのでしょうか。

次の報酬・基準改定も「生産性」が看板に!?

この「生産性向上」という考え方については、政府の「ニッポン一億総活躍プラン」や「経済財政運営と改革の基本方針(骨太の方針)2017」によって、施策上の柱にかかげられてきました。2018年度の介護報酬・基準改定でも、「生産性向上」の具体策として、「定期巡回・随時対応型のオペレーター選任要件の緩和」などに反映されています。

19年に入って、厚労省は「介護サービス事業における生産性向上に資するガイドライン」を作成し、介護現場に向けた普及・啓発を進めています。20年度からは、パイロット事業を通じた全国展開が図れる予定です。

当然、パイロット事業の結果は21年度の介護報酬・基準改定の議論でも取り上げられることになるでしょう。すでに財務省提言では、「生産性向上」の観点からICTや介護ロボット等の導入にかかるインセンティブ導入を求めていて、冒頭の改革本部がプランも、それに呼応した形になっています。

事例に沿った「成果」は課題解決の一過程

上記のパイロット事業の中身を改めて取り上げると、(1)業務仕分け、(2)元気高齢者の活躍、(3)ロボット・センサー・ICTの活用、(4)介護業界のイメージ改善となります。

入口となるのは(1)で、先のガイドラインに沿うならば、休息時間の分散によって特定の従事者にかかる負担を軽減するなど、3M(ムリ・ムダ・ムラ)の解消を目指すものです。また、業務仕分けによってノンコア業務(専門職以外でもできる業務)の抽出を行ない、そこに(2)をあてるなどの流れが目指されます。

ちなみに、施設編のガイドラインでは、35の法人・事業所の事例も展開されていて、実際に従事者1人あたりの業務負担・時間が軽減されたという「成果」も示されています。この「成果」が、法人・事業所の規模や組織風土にかかわらず共有できるものなら、できる所から進める価値はあるかもしれません。

問題は、その「成果」は現場の課題解決に向けた一過程に過ぎないことです。大切なのは、「その先」にある目的、つまり「従事者の働き方の質、および利用者の生活の質」の向上にある点です。その意味で「生産性向上」は手段に過ぎず、手段と目的をはき違えると、「成果」によって「目標」は達成したが、現場の「課題」は解決していない──などということも起こり得ます。(ケアマネも、「プラン上の目標は達成できたが課題解決に結びついていない」などには注意を払うはずです)

現場の気遣いが「非生産的」とされる危険性

懸念されるのは、国の施策が「生産性向上」を目的と位置づけかねない流れを強めていることです。「生産性」が目的になると、一従事者が気を使って(ガイドラインから外れて)行ったことが「生産性がない(だから、その行為は組織の一員としてNG)」というレッテルを貼られる恐れも生じかねません。

たとえば、ノンコア業務を任せていた専門職以外の従事者から、「利用者について気になること」を告げられ、「休息中」の専門職がちょっと対応する。それが早期の異変察知につながれば、「利用者の生活の質を低下させない」という「本来の目的」にはつながるわけです。

しかし、組織として「生産性向上」が目的になった場合、一連の従事者の動きは「なし崩し的にそういうケースが広がりかねない」という名目のもとに、組織として「望ましくない」と判断されてしまう可能性もあります。

「さすがにそんなことはない」と思われるかもしれませんが、組織(身近な上司や同僚なども含む)というのは、目的と手段のはき違えに疎くなると、上記のような方向に暴走する危険を常にはらみます。もっと恐れるべきは、「生産性向上」の見方が、利用者のあり方にもおよぶことです。要するに、手間のかかる利用者は「生産性に反する」という極めて危険なレッテル貼りが生じかねないわけです。

そこに「人間としての尊厳や幸福」はあるか

この点を考えたとき、「生産性向上」をかかげるのなら、それは手段に過ぎないことを国の責任で強く前提とするべきでしょう。最優先は、その先にある「目的」であり、そのビジョンを固めることが各種ガイドラインやパイロット事業でも「最初に行なうべきこと」になるはずです。その目的とは、先の「従事者の働き方の質、利用者の生活の質」であり、いわば「人間としての尊厳や幸福」にかかわる概念です。「生産性」という言葉に比するなら「人間性」とでも言えるでしょうか。

この言葉の方が、業界イメージ改善のメッセージとしては、社会全体に(介護業界を目指そうという次世代人材にも)ポジティブに受け入れられるはずです。「生産性向上」よりも「人間性向上」を──何かというと「人の価値=生産性」で計られがちな(それによって「生きづらさ」が増している)今の社会では、特に意識して頭に入れたいものです。

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