「バリアフリー2019」開催レポ 介護の働き方を変えるテクノロジーとは?

転載元:かいぽけMAGAZINEvol.052夏号より

西日本最大の総合福祉展「バリアフリー2019」(主催:社会福祉法人 大阪府社会福祉協議会・テレビ大阪・テレビ大阪エクスプロ)が4月18~20日の3日間、インテックス大阪で開催された。慢性期医療展、看護未来展、在宅医療展と合同で行われ、会場には医療・介護関係の企業ブースが集結。高齢者や障がい者の暮らしを豊かにする福祉用具等が多数展示され、4展で88,512人もの来場者(3日間合計)が訪れ、大盛況となった。今号では、今後の介護経営の一助になればと考え、開催当日の会場の模様や、セミナーや講演を通じて得た介護保険制度などの最新情報のほか、介護現場の働き方改革、高齢者・障がい者の自立をテーマにした福祉用具・テクノロジーに焦点をあて、紹介する。


会場の模様/バリアフリー 2019公式サイトより

382社・団体が多種多様な製品を展示 多彩なテーマのセミナー・講演が話題を呼ぶ

今年で25回目を迎える「バリアフリー2019」の開催は、慢性期医療展、看護未来展、在宅医療展の3つのイベントを併せ、382社・団体のブースが出展し盛況を博した。この展示会では、各種メーカーが開発にしのぎを削る車いすやリフトなど高齢者や障がい者の暮らしを豊かにするものをはじめ、介護食、見守りセンサー、経営支援サービスなど、介護事業所の経営・運営を支援するためのアイテム・ソフトなど、多種多様な展示品を実際にその場で見て、触わって、体験できるのが魅力だ。

今年初の試みとして、介護食や口腔ケア用品が集まる「栄養ケア・口腔ケアゾーン」、健康機器やサプリメント、フィットネスマシンを紹介する「健康増進ゾーン」が設けられたほか、コミュニティロボットなどが並ぶ「介護ロボットゾーン」、「見守り支援ゾーン」、「認知症対策」など話題のコーナーに多くの来場者の関心が集まった。

講演会・セミナーでは、介護保険制度や、障害保健福祉施策、介護ロボット、栄養ケア、認知症、福祉用具の活用についてなど約100セッションの多彩なテーマが開講され、注目を浴びた。まずはその一部をここで紹介する。

2019年度介護報酬改定と2021年度改定に向けた最新情報を発表

1日目では、厚生労働省老健局高齢者支援課 課長補佐の畑憲一郎氏による基調講演「次期介護保険法等の改正の動向について」に多くの参加者が詰めかけ、満員御礼となった。


厚生労働省 老健局高齢者支援課 畑憲一郎 課長補佐

冒頭、2019年度の介護報酬改定については、介護職員の処遇改善を図るため、現行の加算に上乗せする「介護職員等特定処遇改善加算」創設について説明(資料1)。「経験・技能のある介護職員」に重点的に分配することが目的のため、訪問介護など介護職員が多いサービスには加算率を多めに設定。さらに同じサービスであっても、特定事業所加算などの加算の取得状況を加味して、加算率を2段階に分けて設定している。算定根拠は、勤続10年以上の介護福祉士に月額平均8万円相当の処遇改善を行うことを想定して試算し、国として公費1000億円を投じて行う予定だ。

この加算のポイントは事業所内での配分が自由で、介護職員以外にも分配してもよいなど、経験のある介護職員に重点的に分配するための一定ルールを設けつつも、柔軟な運用ができるようになっているのが特徴である。現行の処遇改善加算I~IIIに上乗せする形で支給され、加算の取得がほとんどないIV~Vは経過措置をもって廃止される。「介護人材の確保だけではなく、定着にも役立ててほしい」と畑氏は述べ、同加算の取得を支援するため、事業所に社会保険労務士を派遣する事業なども検討しているという。

また、消費税10%の増税に伴い、介護の基本報酬等を全体で0.39%引き上げることも説明した。

2021年にスタートする第8期介護保険事業計画に向けた議論も、本年2月から介護保険部会で始まっている。今年の冬には意見を取りまとめ、国会に法案を提出するスケジュールだ。介護保険部会では現在 (1)介護予防・健康づくりの推進、(2)保険者機能の強化、(3)地域包括ケアシステムの推進、(4)認知症「共生」「予防」の推進、(5)持続可能な制度の再構築・介護現場の革新 について検討しているとのことだ。

資料1 新しい処遇改善加算全体のイメージ



〈新加算(特定処遇改善加算)の取得要件〉
●現⾏の介護職員処遇改善加算(I)から(III)までを取得していること
●介護職員処遇改善加算の職場環境等要件に関し、複数の取組を⾏っていること
●介護職員処遇改善加算に基づく取組について、ホームページへの掲載等を通じた⾒える化を⾏っていること

〈サービス種類内の加算率〉
●サービス提供体制強化加算(最も⾼い区分)、特定事業所加算(従事者要件のある区分)、⽇常⽣活継続⽀援加算、⼊居継続⽀援加算の取得状況を加味して、加算率を2段階に設定
●加算率の設定に当たっては、1段階とした場合の加算率を試算した上で、原則、新加算(II)の加算率がその×0.9となるよう設定(ただし、新加算(I)と新加算(II)で加算率の差が⼤きくなる場合(1.5倍を超える場合)には、×0.95となるよう設定)

人材確保策に「ウルトラC」はなし 人材育成と業務効率化による定着を推進

また、畑憲一郎氏は、2日目の(公社)関西シルバーサービス協会主催の基調講演「介護保険における施策動向」でも登壇。生産年齢人口が大幅に減少し、高齢化が進む2040年に向け、厚生労働省が現在取り組んでいる主な介護人材確保対策を紹介した。

介護職員の処遇改善に、引き続き取り組むとともに、多様な人材の確保・育成策として昨年度から導入された、中高年向けの入門的研修を受講した人のさらなるステップアップ支援や、介護職の魅力向上のための情報発信、外国人材の受け入れ体制の整備などを進めていくという。さらに、離職防止・定着促進策として、介護ロボット・ICT活用の促進や、今年3月に発表された生産性向上ガイドラインの普及にも努めていく考えを示した。

介護ロボットの開発については、経済産業省と協働して継続的に事業を進めており、平成24年に策定された開発重点分野の範囲が、平成29年10月にさらに拡大されたことにも触れた。これにより、高齢者の外出をサポートする装着型の移動支援ロボット、トイレ内での動作を補助するロボット、生活を助けるコミュニケーションロボット、介護業務を支援するロボットなども今後積極的に開発を進めていく。

開発の構想段階から介護施設の専門職等と連携し、実用化に向け現場のニーズを踏まえて開発を促進していく。ただし、ロボットについては価格が高額なこともあり、なかなか普及しづらい面がある。導入支援として介護ロボット1機器につき、30万円(補助率1/2)まで費用を助成する補助事業も実施されているという。

ICTについても、今年度から介護ソフトやタブレットを購入する際の費用を助成する「ICT導入支援事業」が始まり、上限額は30万円を予定。

そのほかにも、文書量半減に向けた取り組みとして、実地指導の際に必要な文書の標準化を予定している。今後は自治体に提出する加算申請時等の書類の実態を調査し、提出書類の効率化などを検討していく。基調講演後のパネルディスカッションで畑氏は「人材確保策については、ウルトラCはないと思っている。さまざまな施策を組み合わせて並行して進めていくことで、2025年、2040年に必要な介護サービスが確保されているように真剣に取り組みたい」と話した。

ノーリフトが職場を変え、業界全体の働き方を変える

2日目の講演で、多くの介護関係者が聴講したのが、(一社)日本ノーリフト協会と(一社)ナチュラルハートフルケアネットワークが主催する「デンマークと日本における医療・介護職の腰痛予防対策」だった。デンマークの作業療法士、Helle Buggeskov(ヘレ・ボッケスコウ)氏と日本ノーリフト協会代表理事の保田淳子氏により、ノーリフトの取り組みが紹介された。


(一社)日本ノーリフト協会 保田淳子代表理事

ノーリフトとは、持ち上げない・抱え上げない介護を実践する腰痛予防対策で、日本ノーリフト協会が普及啓発を行ってきた。同協会は、看護や介護に関わる人の腰痛を職業病としてあきらめるのではなく、 ケアのプロとして予防と対策を実施できるようになること、また、腰痛予防対策を機に、医療や介護現場に労働安全衛生マネジメントを定着させること、そして、褥瘡や拘縮の悪化、寝かせきりをなくすなど、ケアを業務化せず、プロとしてケアの質を再検討することを目的に活動している。厚生労働省も平成25年に発表した腰痛予防対策指針の中でスライディングシートや介護リフトを使った介護に触れている。

保田氏は、看護師として2003年から2008年までの5年間オーストラリアに滞在し、そのときにノーリフトの取り組みに出会った。その際に、これまで日本で実践してきたマッサージやボディメカニクスなどの対処療法的な方法では、腰痛の根本解決にならず、労働安全衛生マネジメントから介護の手法を見つめなおすべきだと考えたという。日本に帰って現場の患者さんをみてみると、人の手で持ち上げたために身体がゆがんでしまったケースを目撃し、日本でノーリフトを広める活動を開始した。現在の日本の多くの医療・介護施設では持ち上げない介護が普及しつつあり、介護福祉士の養成課程にも介護リフトを使った実習が取り入れられるようになっている。

デンマークでは、1980年代ごろから持ち上げない介護に取り組んでいる。作業療法士のヘレ・ボッケスコウ氏は、福祉用具メーカーのコンサルタントを経て、Brehms Spilerdug(ブレームス スピラドゥ)社の副社長に就任。スライディングシート「スピラドゥ」の開発者でもある同氏は、デンマークでの介護現場の現状を紹介した。

デンマークでは、労働法により施設、在宅に限らず労働者の安全を確保することが事業主に義務付けられている。そのため、職場には労働監督局による厳しいチェックが入り、けがや事故を起こさない安全な環境づくりが常に求められる。ケアを受ける自宅であっても、介護者がけがをすることなく、利用者が安心して介護を受けられるように、家具の配置のルールや福祉用具の設置が指針として定められている。

デンマークの現場でよく使われる「移動・移乗のピラミッドの図」がある(資料2)。一番下が、自分の力を使うことを示していて、ここが大きなウェイトを占める。下から二番目にくるのは福祉用具。そして、ピラミッドの頂点に「引く」「押す」「転がす」が来て、ようやく人の手により介護を行う段階が示されていて、そこに持ち上げ、抱え上げるという選択肢はない。

職場には、経営者とは別にリーダーがいて、労働環境について全責任を負っている。さらに移動・移乗ピアリーダーという制度があり、デンマークの多くの医療・介護職場に配置されている。ピアリーダーは、介護職として現場で働きながら、同僚や後輩に福祉用具の使い方や身体の使い方を指導する役割を担っていて、移動・移乗の専門教育を受けた人が務めている。

デンマークでも、自立支援の考え方は介護の大前提にある。行動を起こすときは、利用者本人に「腕を動かせるか」「腰を浮かせられるか」と確認を行いながら、できないところにはスライディングシートなどを使い、介護を行う。用具の選定は、独自のアルゴリズムを用い、市町村が作ったリストの中からその人にあった福祉用具を介護職等が選択する。

日本ノーリフト協会特別顧問の垰田和史氏は、「日本の施設でも最近では介護リフトを使うことが浸透してきている。学生によっては、労働安全衛生マネジメントを行っていない施設を就職先に選ばないなど、腰痛リスクを高める介護は時代遅れとなっている。職員の安全の確保は、利用者の安全の確保と同じくらい重要なことだ」と語った。

介護事業の効率化や利用者の社会参加を促す福祉用具も展示

福祉用具には、実に多種多様な製品があり、何を選べばよいのかが難しい。介護保険制度の中では唯一自由価格を設定しているため、同じメーカーの製品であっても、貸与事業者によって差異がある。そのため、事業者によっては法外なレンタル価格を設定していることもあり、問題視されてきた。こうした問題に対処するため、昨年の10月からひと月に平均約100件以上貸与実績がある福祉用具に限り、上限価格を設定することになった。どの貸与事業者を選んでも価格差が少なくなったことから、純粋に製品の性能という視点から利用者が判断しやすくなり、選択肢が広がった。

福祉用具は常に新しい製品が開発されているため、福祉用具専門相談員との連携も欠かせない。福祉用具専門相談員の上位資格ともいえる福祉用具プランナーで構成される福祉用具プランナー研究ネットワーク(プラネット)という団体では、毎年会員によって、優れた福祉用具を決める「プラネット福祉用具アワード」という取り組みが行われている。「支援力(現場での課題を解決する力)」「革新性(革新的な技術やアイデア)」「普及力(広く社会に普及する力)」の3項目から評価され選出。2018年度は、株式会社プラッツの「Rafio(ラフィオ)」と、株式会社シコクの「車いす用スロープ 段ない・スFK」などが2つ星を取得し、バリアフリー2019の会場内でそれらが展示された。

会場ではそのほかに、いま話題の、高齢者や障がい者の分身となって社会参加を支援するロボット「OriHime」が紹介されていた。OriHimeは、重い障がいなどによって外出が困難な人のために開発されたロボットで、遠隔操作ができ、気持ちを表す簡単な身振り手振りも再現してくれる。

会社に出社しなくても、OriHimeで出社して会議に参加したり、不登校の子どもが学校で授業を受けるなどの使われ方もしている。開発者の吉藤健太朗氏も、OriHimeで全国各地を飛び回り、講演活動を行っている。

介護経営をリードするには用具・サービスを活用した職場改善も解決策の一つ

「バリアフリー2019」の取材を通じて、今後ますます介護職員の確保は厳しくなり、介護経営においては、より効率的な運営が必須となることがわかった。

また、利用者の社会参画や社会復帰を目的とした用具・サービスの出展も注目を集めており、介護事業者・利用者双方からのニーズの高まりが感じられた。

一方で、人材が定着・成長する職場を目指すには労働環境の整備も重要だ。各種助成金等も活用しながら、介護現場の働き方改革を着実に実行し、働きやすい職場づくりに努めていく必要がある。無駄を省き、良質のケアを提供することが、今後の経営者の資質としてさらに求められてくるだろう。

注目製品1

介護する人、される人が楽になる超低床介護用ベッド「ラフィオ」

専門家の監修のもと、リラックスできるリクライニングを徹底的に目指したポジショニングベッド。ポジショニングとは、身体の各部が適切な位置となるように、クッションなどを活用して目的に適した姿勢(体位)を保持することをいう。これにより寝たきり等による褥瘡や拘縮を防ぐ。ラフィオは、背上げをハイバック(頭-背部)とローバック(腰部)の2つに分け、それぞれの角度を調節できることが特長。さらに、背上げ時のズレを抑える膝位置のフィッティング機能を搭載し、それを調節することで仙骨部にかかる圧力を軽減してくれる。このため、誤嚥と床ずれのリスクを低減し、より快適なリクライニングを実現した。また、最低の床面高は15cm(最高位57cmまで設定可能)となっており、ふだん布団で寝ている人にも抵抗感の少ない高さとしている。リモコンは握りやすく、シンプルな設計。福祉用具プランナー研究ネットワーク(プラネット)が主催するプラネット福祉用具アワード2018で2つ星を取得している。

注目製品 2

離れていても操作可能 気持ちまで表現する分身ロボット「OriHime」


バリアフリー2019会場にて撮影

インターネットを通して遠隔操作ができるコミュニケーションロボット。生まれつき身体が弱かった吉藤健太朗氏が「たとえ病気の治療や身体的困難で行動が制限されていたとしても、会いたいと思う人に会い、社会に参加し、周囲に『ありがとう』と言われ、生きがいを感じられる社会を実現したい」との思いで開発した。OriHimeにはカメラ・マイク・スピーカーが搭載されており、家や会社など行きたいところに置くだけ。使用者はカメラのついた頭を上下左右に動かすことで、周りの様子が確認でき、楕円形の小さな腕を自由に動かして、「拍手」などさまざまなモーションで感情を伝える。自宅に居ながらオフィスで仕事ができるテレワーク、長期入院中のこどもが病院で遠隔授業に参加できたり、ALSの患者が家族とのコミュニケーションや旅行を楽しめるなど、多様なシーンで活用されている。

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