政府の認知症施策案に欠けた「軸」

首相官邸で開かれている「認知症施策推進のための有識者会議」で、今後の認知症に関する政府の取組み(案)が示されました。「認知症予防にかかるKPI(目標達成に向けた評価指標)」などが注目を集めますが、ここでは「柱ごとの認知症施策」に着目します。

「入口」と「到達点」の間に「橋」がない!?

政府の取組み案を具体的に示した「施策集」の資料は12ページにわたり、大きく5つに分けられた分野ごとに、詳細な取組み内容が示されています。しかし、全体をくまなくチェックして気づくのが以下の3点です。

(1)認知症の人にかかる「要介護認定のしくみ改善」に向けた項目が一つも見られないこと

(2)多様な相談支援の「入口」は示されているが、そこから介護サービスへと「つなぐ」場合の具体的な取組み像が示されていないこと(施策集で示されているのは、「速やかにつなぐための取組み強化」という文言のみ)

(3)認知症にかかる介護保険サービス基盤の強化には「介護報酬」のあり方の方向性が欠かせないはずだが、一切ふれられていないこと

以上の3つは、相互に関わり合っています。つまり、相談支援の強化を「入口」、認知症の人とその家族の安心で穏やかな生活の確保を「到達点」とするなら、その道のりにかかる重要な連結ポイントに当たるからです。この「連結ポイント」が整っていなければ、合間の施策にどんなに力を注いでも、橋の掛かっていない島の集まりに過ぎなくなります。

認知症診断に要介護認定が追いついていない

さて、(1)の要介護認定については、「認知症関係当事者・支援者連絡会議」(「認知症の人と家族の会」など4つの当事者団体で構成)が、やはり5月に発表した「『認知症』─ともに生きるやさしい社会実現のための共同提言」でもふれられています。具体的には、「要介護認定には、認知症の症状や困難度を加味する項目が少なすぎる」として、適正に評価するための指標の追加を求めています。

特に、介護認定調査のスクリーニング項目や主治医意見書のチェック項目において、レビー小体型や前頭側頭型などの症状を拾い上げる項目がないことを問題視しています(本ニュース参照)。確かに、介護保険制度がスタートしてから現在にいたる中で、認知症の診断技術が進み、レビー小体型や前頭側頭型であると診断されるケースが急増しています。

こうした流れに、要介護認定のしくみも合わせていくことは当然必要でしょう。それがなされずに放置されてきたのは、いわば施策上の怠慢であり、今回の施策集でも最優先に位置づけなければならないはずです。国の認知症施策の骨組みとなる新オレンジプランでは、「認知症の人やその家族の視点の重視」を柱の一つとしているわけですから、今からでも早急な対応が求められます。

介護保険には、できる限りふれたくない?

そもそも医師の意見書に、レビー小体型や前頭側頭型を拾い上げる項目がないということは、当事者が介護サービスにつながった時点で、現場に「正しい診断情報」が伝わらない可能性も高くなります。認知症の原因疾患が正しく伝わらなければ、今回の施策集でうたっている「BPSDの予防や軽減、ケア手法の標準化」も役に立ちません。

仮に、正確な初期情報の提供を「多様な相談支援事業や認知症初期集中支援チーム」が担うと位置づけるなら、(2)で具体的にどのように「情報をつなぐのか」を示すことが必要でしょう。また、そこに(1)の要介護認定のしくみ改革を絡め、初期集中支援チームなどが「正しい要介護認定を導くことを含めた初期情報」を固めること。これを施策の柱としつつ、法令等でも強く義務づけるべきでしょう。

これがないと、サービスの初期段階で現場が試行錯誤を含めた大きな負担にさらされることになります。これも施策の重要課題と位置づけるなら、介護サービス側の負担を評価する報酬体系の見直しや新たな介護サービスの設定も議論しなければなりません。つまり、(3)の施策が必要になるわけです。

このように、本来であれば「最優先と位置づけるべき施策の軸」が抜けているということは、今回政府が打ち出した取組み案の「本音」がどうしても見え隠れします。それは、「介護保険側の拡充にはできる限りふれたくない」ということ。言い換えれば、介護保険制度を「予防医療や地域の互助のしくみ強化」で代替えしていくというビジョンです。

今回の取組み案に対し、当事者団体が「不安」を表明するのは、以上のような施策側の「本音」を肌で感じているからとも言えそうです。政府としても、先の連絡会議の提言に真摯に耳を傾け、真に当事者の視点に立った再議論を進めるべきではないでしょうか。

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