「共生社会」議論から垣間見えること

厚労省内で、「地域共生社会に向けた包括的支援と多様な参加・協働の推進に関する検討会」がスタートしました。2017年の介護保険制度等の見直しでクローズアップされた「地域共生社会」という概念ですが、さらに踏み込んだ改革が今後進むことになります。

「支援の効率化を図る」というもう一つの軸

そもそも地域共生社会という概念は、どのように打ち出されてきたのでしょうか。起点は、2015年に設けられた「新たな福祉サービスのシステム等のあり方検討のPT」です。

当時から、地域における福祉ニーズの複雑化・多様化とともに、それに対応するための体制制度や人材確保が(人口減によって)困難になるという状況が大きな問題となっていました。これに対し、包括的な相談支援や(多機能型の福祉拠点の整備などによる)総合的な支援の体制が模索されました。と同時に打ち出されたのが、効果的・効率的なサービス提供のための生産性の向上というテーマです。

介護・福祉分野における「生産性の向上」については、現在も厚労省は現場の業務改革に向けた旗印としてかかげています。介護や福祉に「生産性」という概念を持ち込むことには違和感を覚える声もあるわけですが、いずれにしても、地域共生社会の入口には、こうした「支援のしくみの効率化を図る」という軸が通っていたことに注意すべきでしょう。

さわりのいい言葉から透けてくるもの

こうした議論の流れの中で、(やや唐突に)出てきたのが「地域住民の参画と協働」であり、その姿としてスローガン化されたのが地域共生社会です。そして、2016年6月に閣議決定された「ニッポン一億総活躍プラン」において、「支え手側と受け手側に分かれるのではなく、地域のあらゆる住民が役割を持ち、支え合いながら、自分らしく活躍できる地域コミュニティを育成」と示されました。

これにより、「福祉などの地域の公的サービスと協働して助け合いながら暮らすことのできるしくみを構築する」とし、2017年の社会福祉法等の改正で具体化が図られたわけです。

「支え合う」「助け合う」というのは、さわりのいい言葉です。しかし、先の生産性や効率化というビジョンと照らすと、公助や(社会保険制度をはじめとする)共助をスリム化する中で、地域の互助的な支えに組み替えていくという施策目的が透けてきます。

上記の施策目的を頭に入れつつ、2017年の社会福祉法の改正に着目してみましょう。たとえば、市町村に地域福祉計画の策定を義務づけつつ(努力義務)、その中に以下の事業を定めるとしました。具体的には、「地域福祉活動への住民参加をうながす事業(告知・啓発など)」、「地域住民等による見守りや相談援助を行なうための体制整備」が含まれます。

さて、現在はどのような事業が検討されているのでしょうか。注目したいのは、包括的な相談支援体制の強化に加え、地域における「伴走支援」の確保が示されていることです。

次に目指される「伴走支援」とは何か?

地域での相談窓口を「入口」、個人のニーズに合わせた就労・居住等の支援を「出口」として、その間に「訪問による見守り」などを継続的に行なうことが「伴走」と位置づけられます。なお、地域共生社会研究会(2018年度社会福祉推進事業)によれば、「一人ひとりが多様で複雑な課題を抱えながらも生きていく力を高める(エンパワメント)」ことも「伴走型支援」の狙いと位置づけています。ここでも、唐突に「エンパワメント」という言葉が出てきましたが、次は「自助」も視野に入れた切り替えという踏み込みも感じられます。

確かに、当事者のエンパワメントは介護・福祉における重要な課題です。しかし、これは(ケアマネも含めた)支援専門職にとっても、簡単に踏み込めるテーマでは決してありません。必要なのは、当事者との段階を踏んだ信頼関係であり、それを実践するには相応の訓練と技能が必要です。当然、それに見合うきちんとした報酬も必要になるでしょう。その財源をどうするのかは重要なテーマです。

今検討会で示されているのが、民間からの資金調達の推進です。具体的には、ふるさと納税や共同募金のほか、SIB(ソーシャル・インパクト・ボンド)があげられています。SIBとは、機関投資家や個人投資家、金融機関などから出資(休眠預金等の活用も含む)を募り、サービスへの資金提供にあてるというものです(経済産業省が推進しています)。

もちろんSIBなども財源確保の有効な手段の一つではありますが、これを実現するには民間側の十分なコンセンサスが必要です。つまり、「伴走型」がどれだけのプロのソーシャルワークを必要とするのかといった実務分析を行なうことなく、いきなり民間資金の活用を打ち出すのは無理があるといえます。まさか、この「伴走」にも住民による互助を当てようとしているとは思いませんが、いずれにしてもプロの職能からのヒアリングも通じて議論を深めることが欠かせないでしょう。

共生、支え合い、エンパワメント──さわりのいい言葉はこれからも次々出てくるかもしれません。私たちは、各言葉の後ろに隠れているものをしっかり見る目が必要でしょう。

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