一体化事業誕生で注意したい財源問題

5月15日の参議院本会議で、健康保険法・介護保険法等の一部を改正する法律案が可決・成立しました。介護保険法にかかる改正点では、「医療保険と介護保険の両レセプト情報のデータベースの連結」や「高齢者の保健事業と介護予防の一体的な実施」があげられます。ここでは、後者について、国会審議などを通じて見えてきた課題を取り上げます。

保健事業と介護予防の一体実施にかかる人材

まず、「保健事業と介護予防の一体的な実施」について、改めて詳細を見てみましょう。

(1)市町村が地域支援事業を行なうにあたって、高齢者保健事業(75歳以上が対象)を行なう後期高齢者医療広域連合(以下、広域連合)との連携を図ること。そのうえで、(2)地域支援事業と高齢者保健事業を一体的に実施すること。(3)その際に、市町村は広域連合から特定保健指導などに関する情報提供を求めることができること。(4)市町村は介護保険事業計画の中で、(2)の一体的な実施に関する事項を含めること、というものです(なお、(1)、(2)、(4)については努力義務となっています)。

(1)の中身をもう少し掘り下げましょう。高齢者保健事業に関して、広域連合は市町村に事業委託できることになります。委託を受けた市町村は、地域支援事業と高齢者保健事業を一体的に行なうことが求められます。その際、市町村において保健指導などにかかる人材を配置・手配することが必要になります。

では、その「人材」とは何でしょうか。国会審議では「保健師等の医療専門職(他に栄養士や看護師も想定しているという政府側の答弁あり)」が想定されています。

新配置の医療専門職の人件費はどうなる?

さて、今回の法律案は、野党の多くも賛成に回っています(反対は日本共産党および沖縄の風のみ)。全会一致にかなり近い形での成立というわけですが、国会の厚労委員会での審議などを見ると、賛成に回った野党議員からもいくつかの課題や懸念が出されています。

その一つが、先の「人材」にかかる内容です。たとえば、衆議院の厚労委員会では、以下のようなやり取りが行われました。野党議員から「保健師等の医療専門職」の配属や身分についての質問が出され、厚労大臣は「市町村の判断による」と述べたという部分です。

この答弁に対して、質問した議員は「人がきちんと仕事をしていくためには、その所属と役割、身分(を明確にすること)が必要」としたうえで、「きちんとした処遇をしていただきたい」と述べています。では、この「処遇」にかかる財源はどうなるのでしょうか。大臣からは「特別調整交付金なども活用して支援する」といった意向が示されています。

ここで出てきた「特別調整交付金」ですが、これは介護保険の財源における調整交付金の一つです。周知のとおり、調整交付金というのは、市町村ごとの介護保険財政の調整を行なうために給付費全体の5%分を交付するものです。5%というのは、あくまで全国ベースであり、実際は市町村の高齢者の年齢分布や所得状況などを考慮して配分されます。その中でも、災害等の特別な事情がある場合に交付されるのが特別調整交付金です。

現行の介護サービスにしわ寄せはいかないか

この調整交付金は、被保険者の保険料ではなく国費が使われます。とはいえ、介護保険財源の一環であることに変わりはありません。つまり、介護予防に保健事業がかかわってくる中で、医療専門職の確保に介護保険の財源が新たに使われる可能性があるわけです。

ここで注意したいのは、本来は「災害等の特別な事情」に限られていた特別調整交付金が、新事業に投入される中で際限なく膨らむことはないかという点です。国会答弁で政府側は、今年の秋にも特別調整交付金の交付基準を示すとしています。仮に、この基準によって交付額が膨らむことになれば、介護費用全体を圧迫する新たな要因となりかねません。

新たなしくみで介護費用が膨張すれば、それは財務省による介護費用圧縮への口実となるでしょう。巡り巡って、他の介護保険サービスに影響をおよぼす(介護報酬の引き下げ圧力などにつながる)ことも考えられます。

こうした点について、野党側からは「現行の介護サービス等の予算縮小の懸念」を厚労大臣に問いただす場面もあり、大臣は「指摘されるようなことは考えていない」と答弁しています。しかし、本当にそうでしょうか。

新事業に医療専門職が手厚く配置される一方で、本来の自立支援・重度化防止に資する介護側人材にしわ寄せがいくことはないのか。厚労省は5月に一般介護予防事業等の推進方策にかかる検討会をスタートさせ、この秋にも本事業にかかるガイドラインを出す予定です。この検討会の中でも、上記の課題についてきちんと見ていく必要がありそうです。

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