居宅ケアマネあっての産業ケアマネ

内閣府の規制改革推進会議が第44回の会合を開き、「介護離職ゼロに向けた一段の両立支援策」についての提言を行ないました。今回は、ケアマネが「就労している家族の勤務実態もふまえてケアプランを作成できる」よう、支援を行なう旨が示されています。

オフィス・エリアでの相談支援は確かに重要

上記の提言にもとづき、会議後の記者会見で出されたのが、「産業ケアマネ」という概念です。企業がケアマネを選任し契約を結んで従業員支援を行なう──この考え方は、当コーナーでも以前に提案したことがあります。

テレワーク(情報通信技術によって場所や時間にとらわれない働き方)などが発達しつつある現在でも、「主たる働く場は(家から離れた)オフィスにならざるをえない」というケースがほとんどです。利用者本人にとっては「居宅介護」であっても、家族にとっては「オフィス」が拠点とならざるをえません。

そうした中で、家族に介護が必要になれば、「居宅」のエリアだけでなく「オフィス」のエリア内で相談支援が受けられる環境はどうしても必要になります。厚労省は企業の人事労務担当者向けに「社員の介護支援プラン(介護休業・休暇の取得や部署内でのワークシェアなどを進めるためのプラン)」の策定マニュアルなどを示しています。しかし、家庭内介護の実情によほど詳しい担当者でなければ、現実の支援ハードルは決して低くありません。

欠かせないのは、居宅ケアマネ側との連携

そこに、「産業ケアマネ」という職務がかかわってくることになります。たとえば、一定規模の事業所においては、人事労務担当部署を窓口としてケアマネとの契約を義務づけ、初期相談や上記のプラン作成、「居宅」側のケアマネと連携して「家族業務実態に合ったサービス調整」を行なわせるというものです。

規制改革会議の「産業ケアマネ」の概念では、「居宅」側のケアマネとの連携までは触れていませんが、これは必須の職務とすべきでしょう。なぜなら、介護保険を利用した場合に、そのサービス利用によって家族側の職務状況も変わってくるからです。この調整がしっかり行なわれなければ、通所介護や短期入所の利用が「職場側の支援プラン」にマッチせず、家族にしてみれば職務との両立で試行錯誤の状況が続くことになりかねません。

これに対し、オフィス側のケアマネ(一応、ここでは産業ケアマネとします)が、居宅側のケアマネのプラン作成時点からかかわることができれば、ケアマネジメントも進めやすくなるでしょう。難しいケースもあるでしょうが、産業ケアマネがサ担会議に出席したり、居宅ケアマネ側からの意見照会に応えることで、ケアチーム内の「家族の就業支援」という視点を強めることもできます。

なお、産業医の場合、嘱託・専属にかかわらず、報酬は保険給付ではなく企業側が直接報酬を支払います(医師会などが報酬の目安を示しています)。仮に産業ケアマネが実現した場合も、同様のしくみになると思われます。つまり、企業に対して法律で産業ケアマネの選任を義務づけ、報酬は企業側が委託料・給与として支払うという具合です。

企業側の適正な職務評価(報酬)も必須

ただし、この産業ケアマネ実現のためには、いくつかの条件が必要です。先に述べたように「居宅ケアマネ」との連携を必須とした場合に、産業医と比較して移動や連絡にかかる負担がかかることになります。そのコストを企業側がきちんと評価できるかどうか。「従業員の支援プランさえ作ればいい」という考え方では、十分な役割を発揮するのは困難です。

また、産業医については「従業員50人以上の事業所」に選任義務がありますが、産業ケアマネを想定した場合、ニーズが高いのはどちらかといえば規模の小さな事業所です(介護休業等の取得状況からも明らかです)。しかし、そうした事業所が産業ケアマネに適切な報酬を支払えるかといえば難しいでしょう。やはり、事業所規模に応じて一定の公費の投入が必要になるかもしれません。

それ以上に課題となるのは、ケアマネ人材がこれから先どうなっていくかということです。居宅ケアマネの処遇改善が進まず、基準改定によって業務負担がさらに増えるという状況では、産業ケアマネに人材を割く余裕はなくなります。また、連携する居宅ケアマネ側の人材層が薄くなれば、産業ケアマネが期待される職責を果たすこともできません。

こうした点を考えた場合、もし産業ケアマネを誕生させるのであれば、その前に居宅ケアマネ側がしっかりと職務をまっとうできる報酬と環境が前提となるはず。居宅ケアマネあってこその産業ケアマネである──この視点がないと新たな施策も効果は上がりません。

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