現場視点で見る「大規模化・協同化」

厚労省が「社会福祉法人(以下、社福)の事業展開等に関する検討会」をスタートさせました。地域の福祉ニーズに対する人材不足等が深刻化する中で、経営の協同化や大規模化を進めることを主テーマとしています。次の介護保険制度の見直しにもかかわってくる課題ですが、どんな点に注意が必要でしょうか。

財政事情による大規模化ありきへの違和感

まず確認しておきたいのは、介護経営の大規模化・協働化について、財務省の財政制度等分科会の提言でも主たる論点の一つに上がっていることです。そこにあるのは、担い手の人材不足もさることながら、やはり大規模化等によって経営効率を上げ、限られた財源をいかに有効活用するかという視点です。

周知のとおり、介護事業における収支差率は、小規模ほど厳しくなっています。また、インセンティブ加算などが膨らみ続ければ、当然関連する事務負担も増大し、法人規模による収益格差は今後も拡大する可能性が高いでしょう。政府による社会保険財政の引き締めの流れを見ても、小規模事業者の生き残りがさらに厳しくなることは避けられません。

こうした中での介護経営の大規模化・協働化で注意しなければならないのは、財政上の事情によって「大規模化・協働化ありき」になってしまうことです。本来、大規模化・協働化によって目指すべきものは何でしょうか。それは、現場従事者が「以前よりも働きやすく処遇もよくなること」であり、利用者にとっては「地域事情にかかわらず質の高いサービスが受けられること」にあるはずです。

法人ヒアリングで指摘されている課題とは

すでに大規模化に関して、医療法人による地域医療連携推進制度が進められています。また、協働化では、「小規模法人のネットワーク化による共同推進事業」があげられます。

前者については、19年度までに全国で10の連携法人が設立されています。中には、医療介護従事者の派遣体制を整備し、地域の人材不足を補う機能を発揮しているケースもあります。一方、後者については2019年度予算で、取組み内容の拡充が図られました。具体的には、法人間のネットワークが形成された場合の共同事務処理について、事務処理専門の別法人を共同で立ち上げる場合の費用を助成(初年度限り)するというものです。

今回の検討会は、上記のような取組みを社福主体でさらに進めるべく新たなしくみづくりを模索しています。たとえば、法人ヒアリングから以下のような解決すべき課題をピックアップし、その方向性が示されています。

(1)所轄庁や合併等の手続きに疎い→希望法人向けのガイドラインを策定する
(2)合併等の相手方を見つけることが困難→希望法人向けのマッチング支援の拡充
(3)合併等にあたっての会計処理に不明点あり→会計専門家による検討会で整理

ただし、ヒアリングではもう一つ重要な指摘がなされています。それは、「歴史や経営理念の相違等により、合併等は合意形成が難しい。まずは合同研修や人事交流等により、法人理念の相互理解が重要」というものです。

サービスの質の継続性をいかに担保するか

この指摘からは、現場視点での重要な意味も読み取れます。たとえば、「介護サービスに対する考え方」や「業務にかかる風土・文化」がまったく異なる法人同士が合併する、あるいは共同事業を推進するとします。現場従事者から見た場合、ある日を境に「仕事のやり方」や「ケアのあり方・考え方」が一転するといった状況が生じるかもしれません。

その混乱を防ぐべく調整を図るには、合併・協同を推進する法人幹部が、「自法人の職場の風土や業務の現実をしっかり理解していること」が欠かせません。それがないと、「どうすれば現場の混乱を最小限に抑えることができるか」という道筋を描くことができないからです。それができていないと、協同する両法人の現場管理者・リーダーが軋轢を一身に受け、貴重な人材がつぶれる危険も高まります。

「合併・吸収などどこの業界でもあることで、そこまで神経質にならなくても」と思われるかもしれません。しかし、介護サービスでは、利用者の生活の継続性をいかに担保するかが重要なミッションとなります。なじみのサービスの提供風土が混乱することがあれば、それは利用者の生活に影響を与える環境因子の一つとなる──ケアマネジメントでも、事業者の撤退や変更などが生じた場合に気を配るべき要素の一つとなっているはずです。

大規模化・協同化は避けられない流れとしても、その検討課題から現場従事者や利用者の視点が抜けてしまうことは、結局「誰のため、何のため?」という疑念を呼び起こすことになりかねません。今検討会でも、「現場とサービスの質への影響を最小限に抑える」という論点提示は不可欠ではないでしょうか。

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