人員緩和、施策順序は正しいか?

2021年度の介護保険見直しに向けて、与党の改革案や財務省側の提言、厚労省の検討会など動きが慌ただしくなってきました。中でも、にわかに主要テーマとなってきたのが、ICT等のイノベーションとのセットで人員基準を緩和するという方向性です。本格的な議論の前に課題を改めて整理しましょう。

安易な人員削減が生む、有望若手の燃え尽き

周知のとおり、介護現場の人手不足感は依然として右肩上がりの状況が続いています。介護職員数も2015年度のマイナス改定以降、急速な頭打ちを見せ始めました。また、現場のリーダー格を担う介護福祉士が、受験ハードルの上昇により急減しています。たとえば、国家資格を持たない人材による管理業務なども増えてくる可能性もあるでしょう。

こうした状況下、緩和された基準で人材配置の削減を行なうのであれば、現場の従事者の負担増や事故リスクの増大を想定した対応を強化しなければなりません。ここでいう「強化」の意味とは、現場で何が起こっているのかという課題把握の精度を上げることです。

課題把握の精度を上げるには、現場の職員が日々感じている不安(日常的に上司等には言い出しにくいことも含めて)を、逐一拾い上げていくしくみが必要です。しかし、先に述べたように、管理業務を担う人材も先細りつつある中、「現場任せ」にすれば将来を担う人材の燃え尽きが進みかねません。

この点を考えたとき、法人トップの「かかわり」がより重要になってきます。具体的には、法人トップと現場職員の間の意思疎通のしくみを徹底的に見直し、「法人が現場従事者の悩み・不安を隅々までリアルタイムで把握できる」という環境が必要になるわけです。

緩和するなら法人トップの覚悟が必要に

この基本は、ICT化などのイノベーションがどんなに進んでも同じことです。IoTやセンサー等をどんなに高度化させても、最終的には「人の介入」が必要となります。その際の人の中に潜む不安心理は、他者と共有できてこそ解消されるものです。その共有できる他者が(人員基準の緩和によって)少なくなれば、組織が代替わりしなければなりません。

たとえば、法人トップが意識的に現場ラウンドを増やし、職員の訴えに耳を傾ける時間をもつ。職員との個人面談を拡充する(面談時間は業務時間として算定することが必要です)。事故防止やリスク管理は現場に丸投げせず、法人トップ直属のチームで継続的に課題把握・分析を行なう風土を設けるなどです。

しかしながら、こうしたしくみのあり方は、もともとの法人の体質に左右されがちです。処遇改善加算では「職場環境等要件」が設定されていますが、大切なのは、法人側が本気でコミットする意識・覚悟があるか否かです。基準緩和によって法人が「フリーハンド」になる範囲が拡大すれば、わずかな体質差でもリスク幅は相乗的に拡大する恐れがあります。

オランダのケースと何が異なるのか?

ところで、業務効率という点で、行政内ではオランダのケースとの比較が上がっています。注意したいのは、オランダといえば1980年代からいち早く「ワークシェアリング」を取り入れてきた歴史があることです。労働者は、自らが「働きたい・働ける時間」を申告し、報酬は労働時間が同一なら正規・非正規関係なく同じとする──これを前提としつつ、同じ業務を少しずつバトンタッチしながらシェアするという働き方が築かれてきました。

当然、従事者間のスムーズなバトンタッチのためには、業務上の情報やスキル共有のしくみの高度化が必要であり、そのためにオランダは業務環境のICT化などを急速に進めました。ポイントは、経営側が労働者一人ひとりの働き方をきちんと受け止め、それを叶えるために何が必要なのかを共に検討しながら現場改革を進めてきたこと。つまり、ICT化などのイノベーション改革は「導入ありき」ではなく、一人ひとりが願う働き方を実現するために「課題は何か、解決のために何が必要か」に向けた合意の土台の先に生まれてきたわけです。このあたりが、施策側が提言している業務の効率化とは異なる点でしょう。

主人公はあくまで現場の従事者であり、彼らが「困ったり不安に感じること」の解決が先に立つことが必要です。この施策順序が入れ替わると、先に述べたように「各法人の体質」に任されたまま現場不在のしくみが独り歩きしかねません。問題は、大規模法人でも体質が問われるケースは多いことです。そうした法人が「現場課題を顧みない」体質をあらわにすれば、規模が大きいゆえに介護業界の体質を象徴するものになってしまいます。施策順序を間違えた基準緩和策は、介護業界のイメージダウンにつながる危険がある──この点をしっかり見つめ直すべきでしょう。

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