問われる「事故防止」への国の本気度

3月14日の介護給付費分科会の介護報酬改定検証・研究委員会では、特養ホームと老健における「安全・衛生管理体制等のあり方」についての調査結果が示されました。この中で、あくまで「速報値」としたうえで、施設から市区町村への介護事故報告内での「2017年度の死亡報告件数」が報告されています。

事故死1500人超の数字が一人歩きする背景

上記の数字を改めて確認すると、両施設合わせて1047施設で1547件。この速報値が提示されたことで、多くのメディアで「17年度の介護施設の事故死1500人超」という見出しが立ちました。委員からも懸念の声が出されたとおり、「事故死1500人」という数字が一人歩きを始める可能性が高まったわけです。

このセンセーショナルな取り上げられ方の背景には、以下の2つの要素が絡んでいると思われます。1つは、国主導による介護事故の実態調査が今まで行なわれてこなかったこと。もう1つは、18年初旬に当時の厚労相が「全国規模の介護事故の実態調査を18年内に行なう」ことを明言していたことです。

当時、すでに一部のメディアで、独自調査によって有料ホーム等での転倒・転落、誤嚥等の事故での死亡者数が発表される動きがありました。その数字が国の把握する数字よりもはるかに多かったため、国側の情報把握が不十分ではないかと指摘されていました。

いわば、国による「情報把握とその公開」にかかる前のめりの姿勢と、メディア側の「国の調査動向」にかかる突出した関心が、今回の速報値の公表で合致したこと──これが、1500人超という数字が一人歩きへとつながっていく恐れを強めているといえます。

従事者・利用者、双方への制度サポートを

問題は、委員からの指摘にもあるように、数字の一人歩きが現場従事者の過剰な萎縮につながることです。利用者および家族も、今回の数字を目にする中で今まで以上に防衛意識が働き、現場従事者への直接的なクレームなどが増えていく可能性も考えられます。

もちろん、介護現場の事故リスク軽減は、特に利用者の高齢化や重篤化、BPSDの著しい認知症の利用者の増加が進む中では、早急かつ集中的な対応が欠かせません。しかし、同時に従事者と利用者の双方をいかに保護するか、そのための制度面のサポートなどをいかに整えるかを議論しなければ、現場にしわ寄せが行くだけとなりかねません。

先だっても、長野県の特養ホームで発生した利用者の死亡ケースについて、現場従事者(准看護師)が刑事裁判で罰金刑の判決を受けました。罰金刑とはいえ一従事者が刑事事件の被告となることは、本人の人生はもちろん、すべての現場従事者の働き方に多大な影響を与えます。ちなみに、この裁判では、被告の過失認定や利用者の死亡との因果関係が十分に審理されたとは言い難い面もあります。

こうした判決なども一人歩きしてしまうことで、現場従事者へのプレッシャーとは裏はらに「介護現場の事故リスク軽減」に向けた冷静な議論が後退してしまう恐れもあります。

自治体への事故情報が活かされていない現実

今回の検証・研究委員会に示された市町村や都道府県を対象とした調査をひもといても、残念ながら上記のような懸念を払しょくできる状況は浮かんできません。そもそも自治体が現場から収集している事故報告などが、どのように事故リスクの軽減に結びつくのかという道筋が定められていない印象があります。

たとえば、特養から自治体に報告された介護事故情報がどのように取り扱われているのか。「単純推計のほか、要因や傾向を分析している」という回答は、市区町村で7.8%、都道府県で15.6%に過ぎません。一方、「集計や分析は行なっていない」という回答は、市区町村では46.7%と約半数にのぼります。その後の市区町村から施設への支援を「行なっていない」という回答も35.2%にのぼります。

深刻な介護事故が発生すると、現場では被害を最小限に抑えるべく、応急処置や医療機関との連携、組織内の情報共有などが慌ただしく行われます。その間に自治体への報告を行なうという手間をかけるのは、「法令で義務づけられているから」だけでなく、自治体にそれなりの事後的対応を期待する面もあるはずです。にもかかわらず、「集計・分析さえ行なっていない」となれば、何のために報告するのかという疑問は当然生じるでしょう。

事故は、現場のリスク蓄積が放置されたことによって生じるというのは、全業種のリスクマネジメントでは常識的なことです。自治体だけでなく、国としても「今の人員基準などがリスクにつながっていないか」を検証することは当然必要です。そのための統計であるという認識が問われるでしょう。安易に速報値だけを公表する前に、施策面の分析も行ないつつ総合データを早急にまとめること。そうした国の本気度が今問われています。

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