生産性向上策に足りない「前提」

厚労省が、「介護サービス事業における生産性向上に資するガイドライン」を公表しました。施設系、居宅系、医療系の3分野に分け、それぞれ「現場の業務改善をいかに進めるか」を示しています。居宅系の業務改善事例では、居宅介護支援の事例も取り上げられています。

居宅介護支援の電話対応業務の改善事例

上記の居宅介護支援にかかる事例を見てみましょう。テーマは、ケアマネが日々電話対応に追われて、本来のケアマネジメント業務がはかどらないという課題の解決です。

電話対応の相手は、利用者・家族のみならず、サービス提供事業所や医療・行政機関など多岐におよびます。このうち、業務改善の対象としているのが、対サービス提供事業所です。具体的な流れは以下のとおりです。

(1)サービス提供事業所との電話連絡にかかる受発信・通信時間の把握、その内容の精査を行なう。(2)(1)の通信内容の精査を通じて、連絡方法をルール化(内容や緊急度に応じて、電話を使う時間帯や電話以外の通信手段の活用などを整理してフロー化)する。(3)(2)のルール(フロー図)をサービス事業所に配布する──という具合です。これにより、5日間の電話の受発信時間について(ケアマネ4名の累積で)2時間46分の削減が認められたといいます。また、これにより利用者のADL・QOL低下防止に資するプラン作成ができるようになったという効果も示されました。

ガイドラインに浮かぶ「トップダウンありき」

ここでケアマネの中には、以下のような疑問を抱く人もいるのではないでしょうか。

「電話のやりとりでもっとも大変なのは、対利用者・家族。確かに、サービス事業者とのやりとりが効率化されれば、対利用者・家族に注げる労力は増えるだろうが、それが果たして、自分たちの働き方の改善につながるのか」。さらに「サービス担当者の中には、何度指摘してもケアプランで設定した課題や目標と乖離したケアの修正が行われない。時間短縮の効果だけがクローズアップされると、むしろ乖離問題は悪化しないだろうか」。

上記のような課題は、実際に現場のケアマネからよく聞くことです。ここで、今回のガイドラインの位置づけを振り返ってみます。

生産性向上をとらえる目線がいくつかある中、このガイドラインは「職員を含む事業所(施設)の目線で生産性向上の取組みを扱っている」としています。一方、ガイドラインに記されたすべての目線を取り上げると、「政策・制度の目線」→「地域単位の目線」→「法人の目線」→「事業所(施設)の目線」→「ケア従事者の目線(介護技術)」となっています。

ガイドラインでは、実際の並びは逆で、かつ矢印は示されていません。あえてこの並び、と矢印を記したのは、以下の理由からです。

ガイドラインが示す並びでは、あくまで「ボトムアップ(現場目線で抽出した課題を吸い上げていく)」という理念をもとにしているはず。しかし、実際の介護現場の多くは「トップダウン」で動かされている──というのが、従事者の実感ではないかと考えるからです。

事実、ガイドラインでは、改革手順の入口として「経営層から事業所全体への取組開始を宣言する」と記されています。まさに「トップダウン」を入口としているわけです。

「できる部分から改善しよう」に潜む問題

決してトップダウンが悪いというわけではありません。問題は、「トップダウン」を前提とするのなら、川上から川下への水の流れをすべて同時並行で改革しなければ意味はないということです。最上流の政策・制度は置いておくとしても、法人の目線の改革は同時並行としては避けて通ることはできません。

たとえば、何が業務負担を増やしているかという分析を大きな流れで見ると、必ず以下のような課題が上がってきます。「BPSDが著しいままの利用者がいきなり現場に入ってくる」とか「(利用者状況や組織体制の変更などによって)事故リスクの一時的な高まりやクレーム等の増大が負担になる」という点です。

これらの課題は、法人や地域が「ケアの流れ」の中で川上として担うべきものです。これらを抜きして一部の改革だけをトップダウンしても、対症療法で終わりかねません。

施策者・経営者としては、「できる部分から始めることが大切」と言うかもしれません。しかし、こうしたガイドラインがいったん声高に周知されれば、「できる部分から」という理屈はいつしか薄れ、「このガイドラインを順守しないから現場が改善しない」という主張にすり替えられる恐れがあります。なぜなら、トップダウンには、「トップが自らを振り返る回路」は設定されておらず、現場がそれを指摘する前に「与えられたガイドライン順守」が唯一のミッションになってしまうからです。

こうしたガイドラインが意味のないものとは言いません。しかし、真に活用を進めるなら、地域や法人(さらには国)が「やるべきこと」を明らかにするのが前提のはず。それがないと、せっかくのガイドラインも現場従事者の理解を得ることは難しくなりそうです。

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