介護サービス経営主体の大規模化、統合・再編は可能か

次期改定、「必殺技」はない

新年度が始まり、介護保険サービスを提供する施設・事業所は、新たな介護報酬改定の対応に追われていることでしょう。

さて、マイナス改定は揺るがないとの予測もあるなかで、プラス0.54%という結果となった2018年度介護報酬改定については、驚きをもって報じられたことが記憶に新しいです。

改めて説明するまでもなく、2018年度改定が社会保障審議会介護給付費分科会で議論される前提として、財政制度等審議会が示した厳しい要求がありました。それは、先行して2017年度に介護人材の処遇改善(+1.14%(給付費+1,100億円程度(満年度))が行われており、この先行実施分を勘案して2018年度改定ではマイナス改定とすべきだという要求でした。

それに対して、前回のマイナス改定の影響による事業収入の大幅な減額と空前の人材不足に対する採用コスト増により、介護サービス事業者の経営状況は制度開始以降最も厳しいものになっていたことから、関係団体を中心にさらなるマイナス改定はサービスの質の低下をもたらすとの猛反発がなされました。

結果的に、財務省サイドの強い要求を退けたのは、衆議院選公約でもある「介護離職ゼロ」の政治判断であり、実に6年ぶりのプラス改定に落ち着きました。

その詳細は別に譲りますが、効率的な医療提供体制の実現を目指す医療制度改革と歩調をあわせる方向へ舵がきられたことは明らかで、医療系業界団体からは評価する声も聞かれました。

その一方で、介護サービスを提供する事業者サイドからみれば、微増となったことで安堵する声が多く聞こえます。しかしながら、今回のプラス改定は、診療報酬とのダブル改定であったことから、薬価調整によって社会保障費の伸びを5,000億円程度に抑えることで導かれたことを忘れてはなりません。次の介護報酬改定は診療報酬とのダブル改定ではないことから、薬価調整という必殺技はなく、給付と負担のバランスを大胆に調整する以外は、今回の反動を含めてマイナス改定を回避することは難しいと言わざるを得ません。そして、その方向性において議論は既にはじまっています。

提案された経営主体の統合・再編

我が国の今後の財政健全化施策の在り方を検討する財政制度等審議会財政制度分科会が開催されており、4月11日と25日には社会保障費抑制に係る改革案が示されました。その方向性は、

(1)制度の持続可能性を踏まえた保険給付範囲としていくか(共助の対象は何か)
(2)必要な保険給付をできるだけ効率的に提供する(公定価格と提供体制)
(3)高齢化や人口減少の中でも持続可能な制度としていく(給付と負担のバランス)

の3つの視点であり、現況、以下の8点が提案されています。

1. 居宅介護支援に利用者負担を設ける
2. 要介護1・2の軽度者への生活支援サービスについても地域支援事業に移行させる
3. 老人保健施設、介護療養病床、介護医療院の多床室の室料相当額の基本サービス額からの除外
4. 自立支援・重度化防止等に資する施策を評価し、保険者機能強化のためにインセンティブを活用する
5. 保険者によるケアプランチェックと利用者の状態像に応じたサービス内容・利用回数の標準化
6. 在宅サービスの総量規制・公募制などにより自治体がコントロールする仕組みの導入
7. 介護サービス事業者の経営の効率化・安定化、人材確保、サービスの質の向上のため、介護サービスの経営主体の統合・再編を促す
8. 介護サービスの利用者負担を原則2割とするなど、段階的に引き上げていく

いずれの項目も、利用者負担増、サービス利用頻度抑制、サービス提供事業者数の調整等、社会保障費を抑制する踏み込んだ提案がなされており、今後に向けて大きな反対が予測され議論がまきおこりそうです。その中で、筆者が注目するのは、7. 介護サービスの経営主体の統合・再編です。

そもそも、介護サービス事業者の再編については、これまでも重ねて議論されてきました。

社会福祉法人の大規模化・協働化の議論は、社会福祉基礎構造改革を経て、社会福祉法人の経営基盤の安定化を図るべく、一法人一施設を転換し複数の施設・事業を多角的に経営する「規模の拡大」を求める「社会福祉法人経営の現状と課題」報告書(社会福祉法人経営研究会:2006年)を経て、2008年に「社会福祉法人における合併・事業譲渡・法人間連携の手引き」(社会福祉法人経営研究会)が出されました。しかしながら、具体的なインセンティブが見えない中で「手引き」のみが存在する状況で社会福祉法人の合併が推進されるはずもなく、年間多くて十数件のみの合併実績のままで放置されてきました。

その後、内部留保問題に端を発する社会福祉法人制度改革につながる議論がなされるなかで、2013年12月の第4回社会福祉法人の在り方等に関する検討会において、社会福祉法人の大規模化・協働化が再度提起されました。4月11日の財政制度分科会で示された図の左側「法人間の機能の統合・連携の例」は、当時の検討会において提示されたものとなります。


《 財政制度分科会資料 4.11 》

他方、医療法人との関連においては、2013年8月に出された社会保障制度改革国民会議報告において「医療法人制度・社会福祉法人制度について、非営利性や公益性の堅持を前提としつつ機能分化・連携推進に資するよう、例えばホールディングカンパニーの枠組みのような法人間合併や権利の移転等を速やかに行うことができる道を開くための制度改正を検討する必要がある」と指摘され、「日本再興戦略」改訂2014(2014年6月24日閣議決定)において、「非営利ホールディングカンパニー型法人制度(仮称)」という踏み込んだ記載がなされ注目を集めました。

しかしながら、非営利ホールディングカンパニー型法人制度は、持ち分のある医療法人と持ち分のない社会福祉法人の連携、国立病院や全国展開する医療法人の扱い等の各論の難しさや、営利法人との連携において非営利性の堅持を求める医師会の反対もあり、結果的に医療機関相互間の機能分担、および業務の連携を目的とした地域医療連携推進法人へと形をかえて小さくまとまりました。

いずれにせよ、社会福祉法人の合併は進まず、医療法人と社会福祉法人が連携する非営利ホールディングカンパニー型法人は立ち消えました。そのような状況のもとで、提示されたものが今般の介護サービスの経営主体の統合・再編です。その方向性が、何を目指しているのかを注視する必要があります。

統合・再編の「誘導」から「強制」へ

介護サービスの経営主体の統合・再編を促す大規模化への誘導について財務省は今回、

1. 介護サービス事業の人事や経営管理の統合・連携事業を自治体が目標を定めるなどして進める
2. 一定の経営規模を有する経営主体の経営状況を介護報酬等の施策の決定にあたって勘案することで経営主体の合併・再編を促す
3. 経営主体について一定の経営規模を有することや、小規模法人については人事や経営管理等の統合・連携事業への参加を指定・更新の要件とする

と提案しています。

その根拠として、介護事業経営実態調査のデータにおいて、事業規模が大きいほど経費の効率化余地などが高いことから経営状況が良好となっているからだといいます。

重要なことは、小規模施設・事業所の経営状況を勘案せず、一定規模の経営基盤を有する事業所・施設の収支差をベースに介護報酬を定めようという次期報酬改定における実質的減算が示されたことのみならず、指定・更新の要件として複数法人の統合・連携を強制するという、極めて乱暴な提案がなされたことにあります。このことは、法人の合併や連携を「誘導」する方針から、スケールメリットを活かした経営へ舵を切れと経営者を「強制」する方針へと転じたことを示しています。

勿論、今後にむけては強制のみならず、何らかのインセンティブや猶予策、代替案等が議論されていくわけですが、単純にこの方向で改革が進められたならば、介護業界は大きな混乱が予測されます。

既に、地方では要介護高齢者数のピークアウト予測が近い市町村もあり、入所要件の厳格化以降、特養待機者が大きく減じ利用者確保に苦労するケースや、サ高住が廃業するケースもみられるようになっています。他方、首都圏のように今後の介護需要に対応する入所型サービスの供給量に乖離がみられる地域もあります。そういった各々の地域の状況が異なるなかで、人口1000万人の東京都区部と山間部の町村の状況をも勘案せず、単に事業者へ規模の拡大を迫り、総量規制を含めて自治体が介護サービス事業者の連携等の目標を定めて推進するという提案が容易に通るとは思えません。

しかしながら、乱暴ともいえる財務省サイドからの要求は、換言すれば、肥大化した介護保険財政の健全化のみならず、小規模事業所の統合・再編により硬直化した介護市場の潮流を変えたいという意思表示とも受け取れます。

いずれにせよ、次期は大幅なマイナス改定となります。この3年間で事業者は、経営基盤の強化に着手する必要があり、検討の時間的猶予は少ないです。

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